| 2001年 3月26日 中曽根 康弘 |
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―― 先日の日露首脳会談についての評価は? 中曽根 これは鳩山内閣以来、歴代内閣が非常に苦心して骨身を削ってきた、その集積を一つ確認した。それは領土問題も含めてね。そういう意味において、それなりの意味を持っている。森君の総理として最後の段階における努力としては、その意欲を評価したい。しかし、クラスノヤルスク合意では、二〇〇〇年以内に、平和条約を締結し、領土問題を解決するとあったが、これはもう期限が切れた。次の時間的目標がつくれなかったのは、エリツィン時代に比べて、やや後退してきている。そういう局面からも、再スタート、言い換えれば、出直しということで、改めて新しい事態における日本の対露、対北方四島の中長期対策路線というものを的確に策定する必要があると思う。 ―― 中長期路線とは? 中曽根 私はゴルバチョフ時代から歴代のソ連、ロシアの首脳に対しては、連立方程式で行こうと、そういうことを言ってきている。向こうもそれに応じて、ある程度、積極的態度を取ってきた。XYZのような連立の未知数の一つに北方四島の問題があって、それはXYZの同時解決を向こうにも説明してきて、向こうもある程度それを了承してきた。その他の未知数については、その外交や安全保障政策、或いは経済協力、科学技術、そういう問題、或いは文化協力のような面の協力も前進させて、感情的融和を図っていく、それが大事だと思っている。今後は、そういう面についても努力していく必要がある。 この間、プリマコフ元首相が来て、二人で会って話したが、プリマコフさんが外相として来た時、私に「北方四島で双方の立場を害することなく、共同事業をやろう」ということを彼が私に言ったので、私は賛成だと、そう言った。それは漁業問題については協定が成立して、ある程度の前進があった。これを更に、水産加工とか、或いは鉱山開発など、そのような面についても双方の立場を害することなく共同事業をやったらいい、前進したらいい。それは日本の力というものを住民によく知らせるチャンスだ。そういうことを以前、外務省に話したら、外務省は非常に消極的だった。 しかし、そういうような問題をもう一回考え直す時が来たと私は思う。双方の立場を害することなく、具体的にどのようにするか、私に言わしむれば、中立的な混合委員会をつくれと。それで主権の代行を、ロシアでも日本がなく、中立委員会がやる。これが、双方の立場を害することなくということだろう。また、中立委員会に、税や警察の問題、そういうものも処理させる。そういうことが考えられる。そういう体のある程度の積極策、それから連立方程式方策というものを考えるのが、新しい出発点だと、そう思う。 ―― 橋本内閣以来、北方四島ばかりに、拘り過ぎている面があったと思いますが? 中曽根 つまり、そういう意味における外交的視野、容量が狭いと思う。 ―― 所謂、一種の国際管理みたいな感じになるのですか? 中曽根 そう。一種の冒険だからね。しかし、実績をつくっていく意味はある。この間、プリマコフさんにもそういう話をしたら、彼は賛成だと言っていた。そのやり方は研究する必要がある。ロシアの国情と政治情勢、特に国会の状況をよく飲み込んで、新しい戦略を生み出すことが必要だ。その研究が不足していたと思う。 ―― やはり、外務省が悪いと言える? 中曽根 視野が狭い。それで、エリツィンにかけてやったが、ロシアはエリツィンだけではないことがよく分かっただろう。 ―― 今度のプーチンついての印象は? 中曽根 プーチンは、私はわりあい柔軟性を持っていると思う。今のような考え方で進めば、話し合いには応じてくれる可能性があると思う。何か、その切り口を見つけなければいけない。その切り口の一つとして、またこれを全国民に考えてもらいたいと思う。 ―― この間の日米首脳会談では、ブッシュ大統領から不良債権処理について厳しい注文が出たが? 中曽根 これは直前に亀井君が緊急経済対策を、三党間の承認を得て、公にした。これは森君にとって大変な応援の武器になったと思う。森君は、それを意識して、それプラスアルファというものを考えて、五年というある程度の目処を言ったのだろう。ある程度構造的問題というものにかかるには、やはり、五年位の時間的要素がいると思うね。だが、緊急経済対策は、緊急だから直にやらなくてはいけない。それをやればアメリカはかなり了解すると思う。 ―― 森さんの訪米前に、一政治家と、一国家の問題は別にして考えるべきだと、おっしゃったそうですが、その点については? 中曽根 そういうことは、彼も分かっていると思う。だから、今度のブッシュ・森会談は、予期したよりも成功したと私は思う。第一に、彼は体がでかいから、印象としては頼もしく感じる。今は政治環境がこういうふうに良くないから、必ずしも評価が大して出ないけども、これが普通の政治環境だったら、よくやったと誉められている要素があると思う。 ―― 日露については、森さんが行っても、行かなくても、という声があったが? 中曽根 その点は、今さっき言ったように、鳩山内閣以来の集積を総括して、新しい出発点をつくったと、そういうことで意味はある。 ―― 日米安全保障条約に対する日本の対応は? 中曽根 これは集団安全保障問題というものが何時も底流にある。これに如何に取り組むかが、やはり、足元の問題として大事でしょう。多少時間はかかっても、その問題に目処をつけることが基本的に大事なことであると思う。 ―― 沖縄問題については? 中曽根 これはINSS報告(アーミテージ報告)、あれをよく読む必要がある。森君は向こうのワシントンの閣僚懇でも、ブッシュとの会談でも、アーミテージ報告に非常に関心を持っていると言ったらしいが、官房副長官がそれを発表しなかった。ああいう大事な問題を言わないのは落ち度だ。対日政策の中枢メンバーが、国務省、国防省、ホワイトハウスに入ったが、あれは彼らがつくったものだからね。それに対する関心を持ち、そして今後の話し合いのポイントとしておくことは、向こうも非常に喜ぶし、また日本も必要なことだ。そういうセンスを持った人が、広報関係にいなかったのが、私は良くなかったと思う。沖縄問題というのはそれに絡んでいる。そういう問題をある程度前進させれば、沖縄の基地問題についても、彼らは考えると言っているのだからね。基地の移転、縮小についても。 ―― 森内閣を総括すると? 中曽根 一番苦しい時代に一生懸命努力したと思う。しかし、スタートから言葉の問題で躓き、それが因をなして政権の評価が上がらなかったのは気の毒だった。そういう最初の躓きを是正しようとする努力が側近に足らなかったね。官邸の記者クラブと森首相の応答が毎朝新聞に載るが、あれを見ると、如何に殺伐としているかがわかる。大体、官邸の記者とは、対立しながらも調和するものだ。それが通じていない。それは側近の重大な失敗だ。 ―― 政策面でも、実績がないまま終わったという印象があるが? 中曽根 一番大事なことは、景気の回復と財政の再建の問題であったが、当面の対策と中長期展望の両方を国民に示す必要があった。そういう点では財政当局の首相補佐が足りなかったということもあるが、当面の問題ばかりに目を捕われて、国民が未来に非常に不安を感じている問題、それをどう解決するか、どういうプロセスでやるかという中長期展望を示さなかった。やはり、国民は苦しいことはよく分かっている。日本の今の状況が危機的状況にあることは知っているので、今はこういう状況だから、皆で一緒に苦しみ、そしてこの危機を突破しようと、そういう体の発信が必要であった。 ―― 森さんは経済対策を亀井さんへ極めて一任したところがあったが、亀井さんの政策が場当たり的であったのでは? 中曽根 亀井君は最後に緊急経済対策をある程度の抵抗を排除してやった。それは総理を助ける最後の貢献をしようとしたと思う。 ―― 執行部は四月に総裁選を行おうとしているが? 中曽根 私は二月の中旬の参議院の皆さんとの朝食会で、「目の覚めるようなオペレーションをやれ」と、そう言った。新聞にも載ったけどね。オペレーションとは、外科手術のこと。目の覚めるような外科手術をやりなさいと、そういう意味なので、それは自民党が累積してきた近代の停滞的な印象、或いは体臭、それを払拭しなければダメだと。この所の知事選で石原、田中、堂本といった無派閥が圧勝してきている理由を考え、人心の動向よく見て、それに対応する外科手術をやれと、そういう意味のことを、あの時から言ってきている。それはどういうことですかと、新聞記者から訊かれたから、諸君が良く考えなさいと言った。 ―― 今の執行部の考え方からいくと、対処療法的なやり方しかないと思えるが? 中曽根 いや、分からないよ。 ―― まだ、オペをやる余地はあるか? 中曽根 ある。なければまた千葉県みたいになってしまう。要するに、あれは千葉県の『東京都民』によって勝ったと、千葉県に住んで東京に通勤している。それが現代の都市、特に大都市における風潮で、この前の衆議院選挙から続いていることだ。今回でまたよく分かったでしょう。これには外科手術以外にはない。押出しの一点ではなく、タイムリーヒットを打たなければダメなのだ。 ―― 積極的ということ? 中曽根 そう。 ―― 今度、総裁選をやるが、人物という意味ではなく、どういうことをやる人がなればいいと思うか? 中曽根 今言ったようなことをやってもらったらいい。 ―― 先程言った、アーミテージ報告を認めて答えを出すためには、非常に強固な政治基盤が必要だと思うが、今の自公保連立体制のままでいいか? 中曽根 それはこれだけの国家危機だから、できるだけ政策中心に政治的集団を広げていくことが大事である。問題によっては、超党派的な協力体制をつくる。与野党を通ずる政治家の仕事でしょう。 ―― 経済危機は続いているわけだから、 ここで外科的手術というわけですか? 中曽根 そう。 ―― 今、外から見ていると総裁選の候補、野中さん、小泉さんにしても本人は出たいようだが、表面的には出たくないと言っている。それは派閥の力学でもあるかもしれないが、なにかこうじめじめとしたイメージを受けるが? 中曽根 今、誰がいいとか、誰がでるべきとか、私が言うべきではない。 ―― オープンにやればいいと思いますが? 中曽根 できるだけ広いほうがいい。 ―― 一部の若手の人たちもマスコミ向けにはやっているように見せつけているが、内実が・・。 中曽根 志がある者は皆出ろと。そこで論戦をやれと。論戦を恐れれば民主主義は成立しないのだから。 ―― 三角大福中の時は、派閥の長たる人が総裁選に出る形があったが、今、各派で自前の候補者をあまり出さない傾向がある。志帥会でも、今まで一度も総裁候補を出していないが、その点については? 中曽根 昔から見れば、わりあいに派閥の力というのは弱まってきている。ただ、候補者の政策と資質によるのだ。何が必要かということを国民が求めて見ているわけだから。 ―― 先日、志帥会の総会では、若手から亀井さんも総裁選に出るべきとの声が上がっているが、それについてどう思うか? 中曽根 私は派閥に偏していないから、誰がどうしろとは言わない。超派閥的な視野で党を見なければいけないと、自らを戒めている。 ―― 志がある人がどんどん出ればいいか? 中曽根 そうだね。 ―― 準備のために総裁選の日程が遅れるのはいいか? 中曽根 いや、なるだけ広く、なるだけ早くと私は言っている。 ―― 短い間でオペレーションをやれと。 中曽根 そう。 ―― 根本的な問いですが、やはり、今の日本政治に何が欠けているのか? 中曽根 今、国民も政治家も国家的危機にあるという実感は持っている。それで、国民の皆さんは自分の老後がどうなるか、それを一番心配して消費を節約している。その不安感を如何に除去し、打破するか。そういうことが大事なので、確信のある政策を打ち立てて、その工程管理を見せて、そして私にやらせろと、そういう確信のある候補者が出てくるのを国民は待っている。それで品定めをするのが正しいと思う。今、そういう政策的なものがない。郵貯の民営化が良いか、悪いかという程度の話しか争点になっていない。これは政治の貧困だ。 対米、対露、対中、対アジアの問題。それから内に抱える経済の問題。景気の回復と財政の再建といった大問題を抱えている。その上に、教育の問題が目前にある。それと安全保障、集団的自衛権と基地の問題との絡み、そういう問題に対する見解を堂々と述べて、そして、どういう切り口からやるということを示すことを国民は待っていると思う。 ―― 集団的自衛権に対する国民の意識はだいぶ変わったと思うが? 中曽根 私は以前から、個別的自衛権と集団的自衛権は持っており、両方とも行使できると言っている。今の行使できないという憲法解釈は間違えである。いつまで、法制局長官に頭を下げているのかと、そう言っている。総理が決心して言えば、解釈は変わるものだ。 ―― そういうことをちゃんと言える人が望ましいか? 中曽根 それは、そういう意味の蓄積とか、見識が、その人間にあるか、ないかということだ。 ―― 教科書問題にたいする中国、韓国の反発しているが、今後、ナショナリズムの問題も大きな問題として出てくるのではないか? 中曽根 私が貴社の新聞に感心したのは、国立市の国旗、国歌の問題を取り上げたこと。あれに火をつけて、とうとうあなた方の力によって今年は解決した。あれはなかなかよくやった。国民が支援をしたからね。そういうことは教育にもある。だから、ジャーナリズムが教育改革について自分の定言を発表して、そして、その考えを国民に訴えると、そういうことが非常に大事な要素である。 ―― 海外の摩擦とも上手く折り合いをつけていけるか? 中曽根 難しい問題ではないと思う。 ―― 筋を通すということですか? 中曽根 それは勿論筋も通すし、それからやはり公正な世界に通ずる考え方が基本になければダメである。今、正しい歴史観が非常に不足している。 ―― 何が正しい歴史観か分からないという問題はあるが? 中曽根 そういう論争をもっとやればいい。
(本インタビューは、2001年3月28日(水)、産経新聞(朝刊)に掲載されました。)
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