| 2001年 4月27日 中曽根 康弘 |
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◆参院選が試金石 短命の危険も スタートした小泉純一郎政権を、中曽根康弘元首相に論じてもらった。故小渕恵三元首相を「真空総理」と命名した中曽根氏は、小泉首相を「ベンチャー首相」と形容。「いきはよいよい 帰りはこわい」で、心変わりしやすい世論の支持をつなぎとめるには、「仕事師内閣」に徹することが肝心と助言する。【毎日新聞社論説委員 松田喬和】 松田 小泉純一郎政権が誕生しました。どのようなメッセージを送りますか? 中曽根 歴史は生きており、政治は前進している。いずれも生命力のあるものだ。小泉首相の、時代を読むセンサーは非常に鋭い。だから、今度の内閣に成功すれば、日本を変える先駆的革命児になるだろうし、私は成功を祈っている。 他面、小泉君は党や国会の役職をほとんど経験せず、自らの信念と政策で日本の前進に殉じる首相公選型の政治家だ。小泉君にも助言したが、外科手術をやる場合、麻酔と輸血の用意を周到にせねばならない。明治維新の革命は坂本竜馬や西郷隆盛や勝海舟、大久保利通ら、人材がいてこそ実行できたものだ。国民は大いに期待しているが、議院内閣制では首相は党の総裁でもあり、しかも現在は他党との連立内閣だ。 寛容や妥協も必要となる。 ある人が私に言った。「旧ソ連でゴルバチョフが政権をとって、一挙に党を軽視しポピュリズムで政治改革をやったが、結局は党をつぶしソ連に大混乱を起こした。そのようなことがないように注意してほしい」と。総裁の仕事は、党の団結と選挙に勝つことだ。このへんの配慮は、森喜朗前首相の意見をよく聞くことだと思う。 松田 最重要の課題は何ですか? 中曽根 一つは外交だ。国内政治とは違い、国民的人気の及ばない世界だ。従って成熟した外交でなければならない。同盟国、近隣諸国との外交をいかにうまく処理するかが、小泉内閣の一番大きな問題として登場してくるだろう。 もう一つは、連立政権の維持の問題だ。これも自民党だけの問題ではない、一種の外交に類する問題だ。閣僚、党役員など政権を支えるスタッフが重要だ。 松田 総裁選では党員・党友による予備選が小泉政権誕生の原動力となりました。 中曽根 総裁選は非常によかった。役者が出そろい、国民の見ている前で政策の論争を行い、自民党が世間で言われているような「密室談合」の政党ではないことを広く知らせてくれた。一種の小型首相公選制のような様相も出て、国民の支持で自民党の総裁が決まった。私が首相公選制を唱えているのは、首相と国民が直結して責任を分かち合い、心が通じ合うことが本当の民主政治だからだ。それだけに小泉君の責任は重い。 今後の政局や7月の参院選にどんな影響を与えるか、注目している。これが大多数の党員が一致して支持したゆえんだ。実績が悪ければ短命の危険がある。 松田 1970年代後半から80年代にかけて2回、予備選が行われました。中曽根さん自身も勝ち抜いて首相に就いた。保守層を掘り起こし、凋落傾向に歯止めをかけたといわれています。 中曽根 その通りで、予備選で選ばれた首相は強い。私の場合も、予備選で56万票と、26万票の河本敏夫君の2倍だった。今回も小泉君は橋本(龍太郎)君のほぼ2倍で、かなり強い首相になり得る。 それには政策と人事が非常に重要になる。私の政権では、後藤田正晴官房長官、金丸信幹事長、竹下登蔵相、安倍晋太郎外相と要所に実力と経験を持った人を配した。単なるポピュリズム的な人気で人選をするとひどい目にあう。ちょうど今は、強風が吹いて「小泉だこ」が舞い上がったようなものだ。しかし、風はいつやむか分からない。注意が必要だ。 松田 発足時は「田中曽根政権」などとも呼ばれましたが、5年の長期政権となった要因は? 中曽根 田中派のみなさんにお世話になった。田中派にはかなりの人材がいたが、自分の政策を実現するための手段と考えた。だから毀誉褒貶を超えて、うまく駆使して、仕事師内閣を作って、仕事で国民の判定を得るという方針でやった。 いま小泉政権を見る国民の目は、ショーウインドーを眺めている段階だ。並べ方は成功したが、実際にどんな商品をお客さんの国民に出せるか、が問題だ。小泉政権も仕事中心の仕事師内閣をいかに作り、かつ運営していくかにかかっている。 松田 中曽根政権も発足時は党内基盤は弱く、そこを高い国民の支持率でカバーしました。小泉政権でも可能ですか? 中曽根 政党政治の神髄がよく分かっているか、どうかだ。国民的、大衆的人気がある者は、人気に頼りがちだ。しかし、実際に政治を動かしているのは政党だ。しかも連立内閣だ。その点をわきまえないと崩れはじめる。 松田 総裁選で小泉有利の流れを決めたひとつが、16日の森首相、石原慎太郎東京都知事の会合と言われています。 中曽根 評論家の竹村健一君もおり、「森君、ご苦労さん」会だ。密談めいた話はいっさいしていないし、ましてや子供でもあるまいし一部で報道されているような「橋本君はかわいくない」なんて言っていない。あれは全く無責任な事実無根の記事だ。ただ、予備選で小泉君がどの程度の票を獲得するかが本選挙にも影響を持つ。予想以上の票を取ったので、政局安定に我々としても協力した。今後は小泉君がいかに活用するかだ。 ◆改憲主張、同化力の結果 松田 予備選では、多数の職域支部党員を握っている橋本さんが強いとも見られましたが、世論調査に近い結果が出ました。 中曽根 千葉、秋田県の知事選を見れば、無党派層が政局を支配する傾向が歴然としていた。今回はイメージ選挙だ。総裁選でも思わぬ結果になると議員諸君には言っておいたが、小泉君本人が驚くほどの票が出た。 松田 小泉さんは、首相公選制を公約に掲げました。実現するには憲法を改正しなければなりません。総裁選で論点になるなど、大きく様変わりしましたが。 中曽根 小泉君の政策は、私の主張に非常に近い。憲法改正、自衛隊の憲法上の承認、集団的自衛権への配慮、靖国神社参拝などだ。それらを総裁選で論点にできる時代に変わってきたということだ。鳩山一郎(元首相)さんが55年に憲法改正を訴えて総裁選に立候補して以来のことだろう。 松田 野党は右傾化と警戒しています。 中曽根 いや、それは、日本民族の同化力の結果だ。日本民族は外国文明を入れても、30、40年の間に同化してしまう。古くは、隋や唐の文明を入れても紫式部が「源氏物語」を書き、立派な日本文学を作った。明治維新で西洋文明を入れても、プロシア憲法を同化させ大日本帝国憲法を作り、日清戦争、日露戦争に勝った。 今度も、マッカーサー憲法が50年経過して、その欠陥が見えてきたため、自分の憲法を持とうという気持ちになったのだ。日本民族の同化力、日本の歴史的体質が出てきた。その意味で小泉君があのようなことを言っているのは、日本の歴史と民族性に沿っている。そういう体質を彼自身が露呈している。 ◆通りゃんせ」内閣 松田 政治潮流の走りに 松田 今後の日本の政治潮流のはしりですか。 中曽根 そうなる。憲法改正も10年以内にできると思う。 田中真紀子さんは3年前の総裁選を争った小泉君を「変人」、梶山静六君を「軍人」、小渕恵三君を「凡人」と形容したが、小泉君は「変人」であることは間違いない。だが、「軍人」でもある。自衛隊を軍隊と認めろとか、集団的自衛権の行使を考慮しろとか、主張している。一方においては「凡人」でもある。なぜなら、憲法改正や靖国神社参拝というのは平均的日本人はやるべきことだと思っている。首相公選も、世論調査では80%近くが賛成している。平均的国民が考えていることだ。その意味では「凡人」でもある。小泉君は実は、「変人」「軍人」「凡人」のすべてを持っている。だからこれだけ票が集まったのだ。 松田 小泉政権をうまく形容してください。 中曽根 「いきはよいよい 帰りはこわい こわいながらも 通りゃんせ」内閣だ。今は「いきはよいよい」の状況だが、7月の参院選の結果はどう出るか。その間には景気をはじめ、靖国参拝、集団的自衛権や憲法改正問題もある。現代人はテレビや新聞に影響され、非常に飽きっぽい。だから「帰りはこわい」という現象が起こる可能性がある。 松田 中曽根内閣の人気は乱高下しましたね。 中曽根 今は国民に支持されているように見えるけれど、それは小泉君のキャラクターやパフォーマンスの影響も大きい。あの髪形がいいというだけで小泉君に投票した女性もいる。毅然とした責任感も見せた。ところが政権に就くと、今度は仕事が問われる。小泉首相は「ベンチャー首相」だ。今のIT時代にふさわしい首相だ。当てるためには、内閣と党の要所に仕事師としてやっていくための見識と推進力が必要だ。また、仕事師を働かせる力が親方にあるかどうかが試されてくる。やや世論に迎合した人気中心の軽い内閣の気がする。いわゆる大物とか重量感を嫌ったが、うまくいくかな。これからが本当の正念場だ。 松田 小泉首相に贈る言葉を。 中曽根 自分の信念に従ってまい進しなさい。彼のようなタイプの首相は信念が崩れたり、右顧左眄したりすると、一挙に国民は支持をやめる。「倒れて後やむ」だ。ベンチャーらしい仕事師になってもらいたい。不惜身命だ。
(本インタビューは、2001年4月27日(金)、毎日新聞(夕刊)に掲載されました。)
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小泉内閣の前途 |